なぜ「いびき」は軽視できないのか
「いびきや無呼吸は、ただの寝相の問題だろう」—そう思っていませんか?
当院に来院されるクライアントさんの中にも、ご家族からいびきを指摘され、睡眠時無呼吸症候群(SAS)と診断される方が増えています。実は私自身も40代後半の頃に、夜中に激しい息苦しさで目覚めていた経験があります。
いびきや無呼吸は、単に「のどが狭い」という物理的な問題だけではありません。それは、日中のストレスと無意識の体の緊張が積み重なり、夜間に「体のSOS」として現れているサインなのです。
1. 無呼吸が招く「夜間の交感神経ハイジャック」
睡眠は、心身を休ませるために副交感神経が優位になる時間です。しかし、無呼吸が起こると、体は酸素不足という「危機」を感じます。
- 無呼吸の瞬間: 脳が緊急事態と判断し、本来活動時に働く交感神経が急激に活性化します。
- 覚醒と呼吸再開: 激しい「グォーッ」という音で呼吸が再開する時、脳は覚醒しています。
- 結果: あなたの体は、一晩中、休むことなく交感神経と格闘しています。これでは、どんなに長く寝ても疲れは取れず、日中の眠気や倦怠感、集中力の低下につながってしまうのです。
2. 鍼灸が目指す「症状が気にならない状態」
私たちは、CPAPなどの対症療法が必要な病状を「治癒させる」ことを目指しているのではありません。鍼灸が目指すのは、「症状があなたの生活の障害とならないレベルにまで引き下げること」、つまりQOL(生活の質)を高めることです。
いびきや無呼吸を悪化させている根源は、「体が過剰に緊張し、リラックススイッチが壊れている状態」です。
当院の鍼灸治療は、特に骨盤、肩甲骨、後頭部といった、姿勢と自律神経のバランスを司る要となる部位を調整します。これは、日中に溜め込んだストレスによる興奮や過緊張をリセットし、”身体の自然な「不快を取り除く力」”を取り戻すためです。
3. 鍼灸師自身が実践し改善した「3つのセルフリセット術」
私自身、無呼吸の症状を克服した鍵は、この「体の緊張を意識して脱力する訓練」でした。施術で得られたリラックス効果を維持するために、ご自宅で以下のリセット術を実践してください。
| リセット術 | 目的 | ポイント |
| ① 仙骨ゆらゆら脱力 | 骨盤の緊張を抜き、横向き寝を安定させる土台作り | 仙骨(お尻の割れ目上の平らな骨)にストレッチボールなどを当て、優しく揺らし、背中全体の力が抜ける感覚に意識を向ける。 |
| ② 胸郭解放の深呼吸 | 浅い呼吸を改善し、胸郭の柔軟性を取り戻す | 十分に息を吸い、「フゥーッ」と細く長く息を吐き切ることに集中。吐き切ることで、次の吸気が自然と入る。 |
| ③ あご周りのリセット | 舌が落ち込むのを防ぎ、適切な筋緊張を覚える | 仰向けで、少し力を入れてあごを引く→息を吐くと同時に力を抜く動作を何回か繰り返し、「力が抜けた状態」が快適であることを脳に覚えさせる。 |
終わりに:あなたの中に眠る「自然な回復力」を信じて
治療は、私たちが提供する「施術」と、クライアント様ご自身が実践する「セルフケア」の二輪で進みます。
いびきや無呼吸で悩むあなたへ。まずは日々の「無意識の緊張」に気づくことから始めましょう。体の声に耳を傾け、**「脱力の一呼吸」**を習慣にすることで、あなたの中に眠る自然な回復力が必ず目を覚まします。
質の高い睡眠を取り戻し、症状に邪魔されない、より豊かな日々を一緒に作り上げましょう。